豚にも人にも、地球にもやさしい循環
crucru(クルクル)
※記事内容は2025年7月発刊時のものです。

愛媛県西部に位置する人口約5600人の西予市三瓶町。
今回は、三瓶町で「奥地ほうぼく豚」をちょっぴり変わった方法で育てられている、crucruの長岡湧太さん・慶さんご夫婦に、愛媛大学 学生編集部がその取り組みについてお話を伺いました。
豚の尊厳を守りたい。放牧という選択の原点
愛媛大学 学生編集部(以下 愛大生):長岡さんが養豚、そして放牧にたどり着くまでにどのようなことがありましたか?
長岡慶さん(以下 慶さん):第一次産業に携わりたいという思いから、大学卒業後は野菜の卸売商社に就職しました。でも、実際は第一次産業に関わるというよりは、消費者に届くまでの中間の役割を担っている感じでした。もっと現場に出て働きたいという気持ちが強くなって、そういえば実家で養豚業をしていたなって(笑)。やっぱり自分は畜産業で踏ん張りたいんだという意思が明確になりました。
愛大生:養豚を始めて「放牧」を選択することは大変だったと思いますが、なぜそのような経営スタイルに行きついたんですか?
慶さん:そうですね~。はじめは、昔からいた従業員の方と、父が経営している3000頭規模の豚舎で養豚をしていました。でも、日々の作業の中で、豚同士がストレスからしっぽを噛み合う姿を目にし、狭い空間で思うように動けない環境に違和感を覚えました。
また、病気予防のために抗生物質を餌に混ぜることが一般的ですが、これは本来、健康な環境で育てられていれば必要のないはずの対応です。豚の自然で健康的な暮らしを考えると、もっと違うやり方があるはず。「自分たちにとって」都合・効率がいいというよりも、「豚にとって」の尊厳が守られていることを重視したいという思いでいっぱいでした。私たちは豚に養ってもらっている側。そこで、従来の養豚ではなく、すでに畜産業で良いとされていた「放牧」をやってみたいと思うようになりました。

ブランド名から読み解く!しっぽも農地もcrucru循環 放牧が育む魅力とは?
愛大生:ところで「奥地ほうぼく豚」の屋号にもなっている、「crucru」とはどのような由来があるのでしょうか。
慶さん:まず、「crucru(クルクル)には3つの意味が隠されています。1つ目に、13か所ある放牧地を転々とまわることで生まれたサイクルがクルクルしていること。
長岡 湧太さん(以下 湧太さん):耕作放棄地は、様々な方から譲ってもらったものなので一箇所に集約されていません。各地を回って餌やり、出荷準備などの作業を行うのは管理コストも大変です。わりに合わないと感じることもありますが、時間をかけてでも向き合っていきたいと思っています。
慶さん:2つ目に、耕作放棄地を放牧地として変え、放牧地から再び農地へ変える循環という意味でのクルクル(後で詳しく説明します)。
3つ目に、豚のしっぽは幸せを感じているときにクルクルした形になるということ。クルクルとまるまったしっぽの形は、ストレスフリーでのびのびと放牧されたという、何よりの証です。
これら3つの「crucru」という意味があります。「奥地」というのは、この地区から眺めることのできる、「奥地湾」からとっています。
愛大生:全てを網羅した素敵なネーミングですね!奥地湾のそば、潮の香りを含んだ風の中で、豚さんたちがのびのびと放牧地を駆け回る姿を想像すると、なんだか楽しくなりますね。

働くってこういうことです 豚とともに生きる私たちの日常
愛大生:1日のスケジュールについて教えてください。
慶さん:7時から豚舎にいる母豚のえさやりをして、8時からスタッフミーティングをします。今日どういうことをするかとか、体調の悪い豚の対応などを15分くらい話し合います。その後、ようやく自分たちの朝ご飯です。そして、9時くらいから三瓶町の中心地に餌を取りに行き、豚舎に餌を運びます。その後は、ヤギの散歩を1時間くらいします。
愛大生:そういえば、今日お邪魔させてもらう前にヤギを見かけました!
慶さん:多分そのヤギですね!ヤギを散歩させても何も生まれないんですけど、この行為が結構大事なんです(笑)。もともと放牧地の草を食べてもらうために飼い始めたんですけど、豚の方がよく草を食べることがわかって…。散歩がとても大切なリフレッシュタイムになってます。
そして、11時くらいからまた豚舎で餌やりをして、その後お昼休憩。午後からは梱包作業や事務作業を行い、15時くらいから放牧地を2、3カ所ほど周り終了です。これが私たちのホワイトな理想の1日ですね。
愛大生:なるほどなるほど。では年間を通して、スケジュールが変わる時はありますか?
湧太さん:そうですね。意外と春夏秋冬の変わりはないんですけど、温度変化だけは気を付けています。例えば、夏は小屋にひさしをつけたり、草刈りをしたり、冬になると小屋に藁を敷いたりだとか。
愛大生:そうなんですね!体温管理を年中大切にされているからこそ、豚は元気に成長していくんですね。

環境再生型のエコシステムを築く奥地ほうぼく豚のこれから
愛大生:奥地ほうぼく豚のこれからの在り方について教えてください。
湧太さん:放牧をはじめてから農家さんや飲食店の方、地域の方などいろいろな繋がりが増えてきました。これからは「豚を中心とした環境再生型のエコシステム」をこの三瓶町から作っていきたいと考えています。
例えば、県外からの見学者を積極的に受け入れることもその一つです。実際に放牧豚を一目見たいと遠方から見学に来られる方もいらっしゃいます。そのような方に三瓶町の魅力について気づいてもらう工夫ができればと考えています。
また、地域内で地域のものを循環させていきたいと思っています。例えば、地域で使われていないもの(大豆かすやミカンの皮など)を豚の飼料として使ってみたいです。
そして現在豚が生活している耕作放棄地を農地として再利用していくことも考えています。半年間豚が生活していた耕作放棄地は、リンや窒素が含まれすぎているため、土地を休める必要があります。放牧期間外はそれらを吸収してくれる、野菜を植えたり、農家さんと協力したりして畑として活用したいです。
愛大生:資源、そして土地の循環まで考えられているのですね。
湧太さん: 消費者の方とも繋がっていきたいので奥地ほうぼく豚を食べられる場所を地域に作りたいです。まだまだ、構想段階で具体的な中身について考えていないのですが、新たな養豚のスタイルを築いていきたいと思っています。
愛大生:ありがとうございました!


おわりに
今回、奥地ほうぼく豚の取材に同行させていただき、養豚の新たな飼育方法、長岡さんたちの豚との向き合い方を学びました。ストレスをなるべく減らした飼育方法により、生き生きとした豚の表情を見ることができました。
養豚を持続可能な地域の産業に育てるため、奥地ほうぼく豚の挑戦はまだまだ続きます。三瓶の大地と愛情が生んだ、この上ない一口をあなたにお届けします。
